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札幌高等裁判所函館支部 昭和25年(う)118号 判決

被告人

佐藤正司

主文

本件控訴を棄却する。

当審に於ける未決勾留日数中三十日を本刑に算入する。

理由

弁護人白木豊寿の控訴趣意第二点について。

(イ)  親告罪に於ける告訴は訴訟条件で、其の存否は裁判所の職権調査事項に属するものであるが、該調査の方法について法律は何等の制限をも定めていないから、受訴裁判所は適宜な方法によつて、其の調査を為し得るのであつて告訴状又は告訴調書が証拠能力を有しない場合でも、それは事実認定の資料と為し得ないというに止まり、適法な告訴の意思表示があつたかどうかにつき職権調査の資料となし得ない理由はない。所論は親告罪の告訴につき証明を要するものとの誤つた前提に立つものであつて採用の限りでない。

第五点について。

(ロ)  職業安定法第五条第一項に所謂雇用関係とは純然たる雇傭契約でなくとも、社会通念上使用従属の関係と認めらるる場合を指称するものと解すべきことは、同法立法の精神に照らし疑を容れないところであるから、仮令本件特殊喫茶店主たる光安エイと淫売婦笹井トシとの契約が所論のように「右光安は右笹井に対し、場屋寝具その他を使用せしめ、且つ食事を給し、之に対し右笹井は替価を支払うことを内容とするものである。」としても、両者の関係を実質的に観察すれば、右光安が右笹井を自宅に居住させて食事を給し寝具その他を使用させ坐席を提供すること自体右笹井に売笑行為を反覆累行させているものというべきであつて、所論の替価といえども単なる食費又は使用料と見るべきではなく、右笹井が売笑行為によつて得た金銭を両名が歩合によつて分割しているのであつて、報酬の額を一定せず稼ぎ高に応じて支払うのと何等変りはないのであるから、右両人の間には自ら使用従属の関係があることは明らかで、之を右に所謂雇用関係と見るべきは当然である。従つて此の点についても所論の違法はない。

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